全固体型リチウムイオン二次電池は、車載用も含め様々な分野での利用が想定されているエネルギー貯蔵デバイスであり、現在大型国家プロジェクトも含めて様々な研究が進められています。全固体電池の開発は、材料合成、材料実装、特性評価、シミュレーションなど多くの研究分野によって成り立っており、それに伴い多種多様な企業も開発に参加しています。そしてそのような開発の課題の一つとして、固体電解質と正極活物質間の界面制御が挙げられます。これは全固体電池特有の問題である固体同士の界面制御に関する物であり、この解決には例えば、正極活物質粒子表面へのナノレベルで均質な複合金属酸化物のコーティング技術が必要です。本研究室では、このようなナノレベルの課題に対応可能な粒子コーティング技術を開発し、全固体電池開発に関する大型国家プロジェクトに参画することで、実際に研究室で開発した材料の全固体電池への実装について取り組んでいます。
粒子表面へのコーティングは主に1990年代後半から研究が始まり、現在様々な量産プロセスが提案されていますが、ミクロンオーダーの正極活物質にナノレベルの保護層をコーティングするためには、現在でも多くの課題が存在します。
特にナノレベルのコーティング層の構造制御は、大学の研究としても多くの課題が残っています。私達の研究グループは、このような課題の解決に2000年代初頭ごろから取り組んでおり、化学反応や析出現象を組み合わせた技術を提案し、コーティング層のナノレベルでの構造制御に成功しました。そしてこの技術を、全固体電池への実装を目指した材料開発として利用しており、現在多くの企業との共同研究を行っています。
現在日本では、電池開発に関する大型国家プロジェクトとして、大学が主体となっている『電池自動車用革新型蓄電池開発(RISING3)』や、企業と大学が共同で研究を進めている『次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発(SOLiD-NEXT)』などがあります。
私達の研究グループはSOLiD-NEXTの前身プロジェクトである『先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)(SOLiD-EV)』より、このような大型プロジェクトの一員として参画し、現在SOLiD-NEXTの初期メンバーとして他大学や企業と共に次世代材料の評価基盤技術となる標準電池の開発、全固体電池特有の現象・機構を理解しながらの材料・設計・プロセスの要素技術の開発、そして実証電池の開発に携わっています。
またここで開発した技術は、様々な材料開発に転用可能であるため、多くの企業と電池材料以外の材料開発についても実施しています。
SOLiD-EV, SOLiD-NEXTプロジェクトのプロジェクトロゴ。現在このような大型国家プロジェクトの一員として全固体電池の開発に携わっています。
大野 智也Tomoya Ohno
機械電気系 教授
Advanced Powder Technology (Elsevier) Executive Editor
粉体工学会理事、粉体粉末冶金協会 粉体基礎分科会主査