「薄い」という特徴を有する薄膜材料は、身の回りで電子機器を始め広く利用されています。ナノ構造・ナノレイヤの活用による材料の高機能化・省エネルギー化を目指して研究・開発を行っています。例えば全金属材料の中で最も低抵抗率・高反射率という優れた特徴を有する銀薄膜に着目し、ナノメートルスケールでの表界面層の導入により、加熱や高湿度環境での凝集を抑制し、銀本来の電気的光学的性質を維持できる高安定銀薄膜を開発しています。また、極めて薄い銀薄膜は建物の省エネルギー化に有効なエコガラスにおいても重要な役割を果たしています。
全金属材料の中で、最も低抵抗、高反射率、という優れた特徴を有する銀薄膜は、各種電子デバイス類において、電極材料、反射ミラーとしての用途が有望です。
しかし、加熱により凝集現象が生じて、それらの物性が劣化するという問題があります。その克服のために、表面ナノレイヤ、界面ナノレイヤを導入した構造とすることで、薄層化しても耐熱凝集性に優れ、また銀本来の物性を維持できる薄膜を開発しています。実用材料として重要な環境耐性も十分に認められています。
ディスプレイ・太陽電池に必要不可欠な透明導電膜としは、現在ITOが主流ですが、デバイスの大面積化を見据えて更なる低抵抗化が要求されています。
また、省・脱インジウムの材料開発が求められています。極薄銀薄膜を酸化物内部に挿入した積層構造の透明導電膜を作製しています。膜の構造や作製プロセスの最適化により、電気的・光学的特性に優れた膜が得られています。積層構造にすることにより、シート抵抗の大幅な低下、インジウム使用量の削減が達成できています。実際に有機EL電極として、高性能な動作が確認されました。
地球規模で進行している温暖化に歯止めをかけるため、低炭素社会実現のための努力が必須です。現在日本の家庭でのエネルギー消費において、冷暖房が占める割合は約三割にも達しています。そこで注目されているのが、冷房暖房に要するエネルギーを大幅に抑制することができるエコガラス(複層Low-E)です。
エコガラス用コーティングでは、極薄い高品質銀薄膜が重要な役割を担っていますが、そのために様々な物質の薄膜を工夫して積み重ねています。私達はより高い省エネルギー効果を得るためのプロセスや膜構造を研究しています。
普通の金属膜は緻密な構造をもち、光を反射しますが、あえてスカスカな(ポーラス)構造に作ると、光を吸収する黒い膜ができます。そのポーラスな構造を利用してガスセンサへの応用を検討しています。私達は、真空蒸着装置やスパッタリング装置を用いて、作製条件を通常とは大幅に変えることにより、様々な金属のブラック(ポーラス)膜を作製しています。写真は通常の銀薄膜とポーラスなB-Ag膜です。
川村 みどりMidori KAWAMURA
応用化学系 教授